その時じゃないと読めない本

 引越してみて本を整理してみると、ちょっと前に読んだ本と今読む本は歴然と違うなと思う。
 本には適齢期があってその歳でないと読めないんだ。
 今ごろわかった。


 10代はやっぱり熱しやすい本でしょう。ロマンロラン、開高健が大好きだった。司馬遼太郎も維新ものは沢山読んだ。読み方も熱しやすい読み方だった。夏休み中に岩波新書を1番から読み最後まで読了しようと企てた。乱読だ。実際は100番もいかず途中で挫折したけれど。


 10代終わりぐらいから哲学ものを読み始めた。マルクスは当然だったし、反論としてマックス・ウェーバーも読んだ。大学に入って一番最初に感激したのが論理学の授業だったので、哲学と言っても方法論が多かったし、デカルトの『方法序説』やウェーバーの『職業としての学問』は必須だなと思っていた。大学時代の仕上げはレヴィ・ストロースで、無意識の構造論が一際すごいと思っていた。レヴィストロースは少し年齢いってからもっと読みたいけれど。


 会社に入るころから社会人ものが増え、職業上のノウハウものはこの時しか読めない。知的生産の技術やホウレンソウのようなコミュニケーションの技術なんかもこの時はけっこう読めた。今ライフハックのような本とても好きでもっと読みたいけれど断片的に見えてしまう。方法論は楽しいのだけれど。


 30代に入るか入らないかでマーケティングのような心理学、社会学、経済学の混合のような実務的学問が楽しくなった。検証データのような背景がありちょっと手強い実務本はやはりキャリア10年目ぐらいがちょうどいい。大学院に行って本格的に勉強したいなと、実務的な学問を徹底してやるにはこの歳がぴったりなんだろう。


 40代始めぐらいは脳科学のような基礎科学で実務科学を捉えなおしたいと思うようになって、しきりに茂木健一郎さん、養老孟司さんのような本をしきりに読んだけれど学としての知見を面白いけれど、応用が利くレベルには達せず、やはり根源的な学問的手続きがわからないと実務には使えないと思った。


 40代はこの根源性のある学問に再度トライできる歳であり、組織心理学を専門研究者小林惠智博士のもとで10年近く研究させていただいた。人生にとってこの10年はとても貴重で、研究意欲は歳をとってますます激しくなってきた。40代って知識経験の統合性があるので意外にも大変効率的な学習研究が可能。


 そして40代後半。徹底して人間論を学ぶ時のように思う。40代後半、50代の旬な本はやはり歴史じゃないだろうか。
 実務のほうと言えば本よりブログのほうが新鮮で生の声があって、コメントを通じて深いレベルに到達しているから、本を読むより勉強になる。本じゃないなあ、こちらのほうは。