経営者コーチという手法

 ある企業経営者のコーチを担っている。ごくプライベートに。


 1対1で、カリキュラムを構成し1問1答で下問し<対話>していく。
議論ではなく対話だ。
以前は理詰めで追求していくような話し方をしていたけれど、最近はやらないようにしている。

 議論は論理中心で、対話は感性中心だ。
構成要件は一応頭の隅にあるのだけれど、それは最初に強く意識した後、忘れるようにしている。
あとは感性というかなりゆきの議論をしながら、キーワードを拾い立論構成していく。


 以前ならばこんな議論の進め方だ。
焦点を絞って追い込んでいくプロセスだ。
末:「戦略ってほんとう必要ですか?」
社:「10年を展望してでの方針というべきものでしょう。必要に決まってるじゃないですか」
末:「単なる方針ならば方針と言いましょうよ」
社:「そうだけれど、これは野望といっていいものですから、戦略という言い方がよいじゃないですか」
末:「戦略は環境と資源の分析から生まれるものであってサイエンスですよ。単なる野望というのは戦略じゃない」…


 対話ならばこう。
なるべく感情や感覚を交えながら話していくやり方。
末:「そろそろ5年、10年先の会社像を考えたいですね」
社:「(紙をみせながら)いちおう書面にしたけれどね、しっくりきてないね、なんだろう」
末:「元気のよいメッセージなのにね、社長は元気になれないか(笑)」
社:「自分だけなんだよね、将来像、将来像って言ってるのは…」
末:「社長だけなんじゃないですか、きっぱり将来像って言えるのは。寂しいけれどそれでいいんですよ」…
やや拡散的だけれど、戦略の持つ役割や課題がすぐさま見えてくる。


 コーチという方法は感情と論理だ。
 この2つがセットされていると意外に深い会話が成り立つ。人生相談みたいになるけれど、会社の戦略もまた人間が作るものだから、人間の意志や感情という内面要素ときっても切り離せない。

 
 戦略を主体としたコーチでも意志と感情が基盤ということを忘れはいけないと思う。講義で戦略を教えているとどうしてもフレームや論理プロセスの話ばかりになるけれど、指示するのも人間、指示されるのも人間、商品買うのも人間だから、客観的な事業環境分析が終わり事業課題が明らかになったならばあとは徹底して人間くさく考えるのがもっともいい方法だ。